2.27.2016

no.251 メンデルスゾーンは汗ばむ

近所の県営朝宮公園には野良猫がたくさんいて、一時期はよく通って親しくしてもらった。

警戒心なく膝の上に乗ってきては居眠りをする三毛の「尾張ちゃん」、近寄ると逃げていき忘れたころにいそいそと近づいてくる黒猫の「バーベキュー」。

そして私とは距離を縮めることなくいつもとり澄まし、ついぞ交流を持つことが叶わなかった綺麗な白猫のことは「メンデルスゾーン」と呼んでいた。

かの高名なクラシックの作曲家の名前を借りたのは、そのイメージに「気品」を感じていたからであって、実際にメンデルスゾーンを聴いたうえで名付けたわけではなかった。

*  *  *

あれから数年が経ち、このところメンデルスゾーンの楽曲をまとめて聴いている。

「気品あふれる優雅な白い猫」といったイメージは全く的外れなものだった。

数多ある楽曲群をまとめて語ってしまうのは乱暴きわまりないが、その印象をあえてひとことで表せば「青春の息吹」。颯爽とし、溌剌とし、スポーティーで、さわやかな汗を感じる楽曲に度々出会う。

早熟の天才としられるメンデルスゾーン。
16歳に書かれた《弦楽八重奏曲》は第一楽章からして熱っぽく、最終楽章で華々しく弦が絡み合う大円団には思わずポカリスウェットに手を伸ばしてしまう。


三 大ヴァイオリン協奏曲のひとつ《ヴァイオリン協奏曲 》。叙情性を洋々と歌い上げる演奏が多いが、ときおりドライブ感の溢れる演奏に出くわすと興奮は必至、もはやオロナミンCを飲む必要はない。


アドレナリン分泌系でもう一曲を挙げれば《ピアノ三重奏曲第1番》。まばゆい重奏に目が覚める。テスト前の徹夜に飲む眠眠打破か。いや、そのラインナップのなかで強壮力が最も恐ろしい激強打破にも似て。


青春の甘酸っぱい思い出に浸りたい向きにはピアノ独奏曲集《無言歌》を。
同時代のショパンやシューマンとは一味違った詩情をひたひたと湛えている。




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調べるうちに知った。

結婚式の定番、いや、定番といっても実際の式で聴いたことは一度もない《結婚行進曲》もメンデルスゾーンの手によるものだった。


純白のウェディングドレス。ここにきてあの猫のイメージが強引に割り込んできた。

1.25.2016

no.250 メキシコの三人

ついにあの麻薬王が捕まった

メキシコ最大の麻薬組織シナロア・カルテル最高幹部、ホアキン・グスマン、通称「エル・チャポ(小柄なヤツ)」が。


エル・チャポによる2回目(!)の脱獄後、メキシコ政府は懸賞金6000万ペソ(約4億円)をかけ血眼になって行方を追っていた。

1回目の脱獄は2001年、刑務所職員ほぼ全員を買収し正面玄関からの「脱獄」。費やした額3億円。

2回目の脱獄は2015年、外部から刑務所へ掘られた地下1.5㎞のトンネルによって。通路には照明や換気口があり、バイクすら用意されていた。60億円が費やされた。

エル・チャポ率いるシナロア・カルテルはメキシコ経由で米国に密輸される麻薬の約4分の1を取り扱ってきたとされ、個人総資産額は10億ドルとも。敵対組織に対する残虐な「仕事ぶり」でも名高い。ついでに奥さんは元ミス・メキシコだったり、貧困層に仕事を与えたり災害時には政府より早く支援にかけつけるなど義賊的な一面もあったりと、「いつ映画化されて、誰がエル・チャポを演じるか」と思わせるエピソードに事欠かない。

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と、メキシコまわりの情報に耳ざとくなるのは年末に購入したメキシコのボーカルトリオ集に聴き惚れているため。

                                      Grandes Trios Del Bolero               

ボーカルトリオ全盛なる1950年代の録音が中心。

三人のコーラスがギターを伴い「ボレーロ」を歌う。

「ボレーロ」はカリブ海周辺〜南米諸国においてかつて主流だった歌謡スタイル。ボサノヴァなどを愛聴してきたリスナーが次なる開拓地として熱い視線を送る「フィーリン」と隣接しており(それを包括しており)、豊かな歌謡性が魅力。リズム、テンポのおおらかさも特徴か。

本盤、ジャケットを見て「いなたい」「カビ臭い」音を想像させる方もあるかもしれない。

実際のところは、そういった『臭さ』と、胸に激しく訴える『甘美さ』とのスレスレのところに楽しみを見つけたい一枚となっている。

果物の熟に熟したところを手に汁したらせて味わう感覚とでも言おうか。

個人的には「ジャズのコーラスグループ を思わせる洗練×インドネシアのクロンチョンを思わせる典雅」を連想しながら聴いている。

ごたくはこれぐらいにして、収録曲がYoutubeにいくつか落ちていたので紹介したい。

Los Tres Ases (ロス・トレス・アセス)




Los Tres Caballeros (ロス・トレス・カバジェロス)





プエリトリコのグループも収録されている。

Johnny Albino Y Su Trio San Juan(ジョニー・アルビノ・イ・ス・トリオ・サン・ファン)。

アルビノはやがてトリオ・ロス・パンチョスのリードボーカルに就く人。


これらを聴いていると、今までそのありかすら定かでなかった感性の一極がむくむくと形作られていく気がする。

世の中は広いもので、ボーカルトリオのみを詳細に紹介するホームページを発見。

[Triomani 思い出のラテンアメリカ・ボーカルトリオ]

あまりのトリオの充実ぶりに驚きつつふと思う。
なぜ3人でなければならなかったのか。

1.11.2016

no.249 隠すの隠さないの

たまたま関東圏のラジオJ−WAVEが耳に入った。

リスナーにアンケートをとる「J'S RESEARCH」というコーナーで、テーマは

《マフラーに似合うヘアアレンジといえば?》

だった。

結果は男女ともに「自然におろす」が第1位となって、へぇ「アレンジ」とは「手を加えない」も含めるんですねと目から鱗がこぼれつつ、でもそれって好きな味噌汁の具材を問われて八丁味噌と答えるようなもんじゃないのと目鯨も立てつつ、にもまして有効回答数が2,163という数字におののいた。
お忙しいなかよくぞお付き合いくださいました。

番組は続いて街の声を紹介するのだが、ほとんどの男性がアンケートそっちのけで「マフラーに顔をうずめている女子にキュンとくる」と回答。

やや隠れているほうが魅力的、と。

なるほど。冬のゲレンデにおけるそれであったり、その他心当たりのある紳士諸兄もおられるだろう。

世の中は広いもので「その手」のサイトも存在しているようだ。

【マフラーしまい髪研究所】



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「スター・ウォーズ エピソード7/フォースの覚醒」を観た。

全シリーズをオールナイト上映で観た(気がする)経験アリ、エピソード1か2を深夜の初回上映に並んで観た経験アリ、エピソード2と3を繋ぐ3DCGアニメ「クローンウォーズ」はあっちのアニメ映像にしっくりこなくて1話わずか5、6分で脱落、というファンになりたいミーハーを自認する私らしく公開からちょっと経ってから観た。

かっ!(瞳孔開きました)

「覚醒」とタイトルにもあるように登場人物はそれぞれ「内に隠し持つ《使命》《才能》《野心》《良心》」に直面し、自らを発見していく。

劇中の節々で「逃げるな。立ち向かいなさい」というメッセージが発しられるものだから、易きに流れる我が人生すら糾弾されているようで手に冷や汗握る。

スター・ウォーズといえば悪役のキャラ立ちが特徴。

で、上に挙げた画像がこのたびのシリーズで初めて登場することになった悪役「カイロレン」。

ダースベイダーを思い出させる漆黒のマスク、スーツで登場。

ゾクゾク、、!

マスクから漏れ出るのは機械音混じりの声。

ゾクゾク、、、!

十字形の赤いライトセーバー。

きたきたきた!

、、、あれっ。

マスク脱ぐの?

え、もう顔出しちゃうの?こっちの心の準備できてないよ。

ダースベイダーはエピソード4、5とひっぱってついぞ6で脱ぐときには、感涙必至のドラマを帯びてたよ。

長らくマスクであったからこそ、冷酷非道なふるまいに不気味さが増したのだし、顔色が伺えなかったからこそマスクの下の「悪のなかでゆらぐ良心」なんかをこちらが勝手に見出していたのであって。能面みたいに。

隠れてたほうが魅力的、に1票。

 *  *  * 

スター・ウォーズの魅力の1役を担うのが巨匠ジョン・ウィリアムズの音楽。

オープニングタイトルと共に鳴り響くメインテーマは、壮大なスペースオペラの世界に我々を速やかに導入し、期待を昂ぶらせる。

シリーズ中、強く私の心を捕らえるのはエピソード1で重要な戦闘シーンに流れていた《Duel of the Fate》。




ヴェルディの《レクイエム》「怒りの日」を彷彿とさせる苛烈な合唱付オーケストレーションに神話的崇高さを感じる。

『ジョーズ』『ジュラシックパーク』『シンドラーのリスト』『ハリーポッター』をはじめ多くのジョン・ウィリアムズの映画音楽は一聴してもう映画の何割かを観た気にさせてくれる。

おまけ。偉大な作曲家の 陰に隠れることはまったくなかろう、同姓同名のクラシック・ギタリスト、ジョン・ウィリアムズの音楽を。
静謐と豊饒を張らませるピュアな弦楽。